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2010.06.04

Agile Japan 2010 イベントレポート:後編(Day2)

体験しよう!考えよう!行動しよう!
Agile Japan 2010
― 日本のアジャイルはここにある ―

 

EM ZERO編集部 野口隆史

第2日目(2010年4月10日)

前編(Day1)はこちら

 

キーノートセッション
「アジャイルの現状と未来、次に来るもの―リーン開発への展望」
Alan Shalloway氏

アジャイルジャパン2010の2日目はAlan Shalloway氏のキーノートで幕を開けました。1日目のパネルディスカッションで、これまでのアジャイルにはコンセプトをビジネスにつなげる「価値流」が欠けていることを指摘した同氏は、その主張を詳しく説明しました。

 

・アジャイルに欠けているもの
アジャイルには大きく分けて、技術面にフォーカスしたXPと開発チームにフォーカスしたスクラムがあるものの、いずれも全体性に欠けており、これまでチームレベルでは成功を収めているものの企業レベルではうまくいっていないと言います。むしろ、アジャイルのプラクティスはマネジメントと開発をうまく切り分けたことでうまくいったとも言えます。しかし、ビジネスのアジリティを高めるには、すべてのレベルでビジネスビジョンを共有する必要があるというのがShalloway氏の主張です。

 

・ディレイを取る

生産性を上げようと速くプログラムをすると、エラーが埋め込まれ、手戻りが発生し、かえってスピードが落ちます。生産性に焦点を当てると、逆に遅れが生じることがあるのです。
マネジャの仕事は開発者たちを忙しくさせることではありません。そうではなく、何がソフトウェア開発のスピードを下げているのか見つけることが大切です。リーンをソフトウェア開発に適用する際には、いらない仕事を作らないことが大切です。要求のやり直し、要求の劣化、バグ取りなどが起きないようにしなければなりません。XPやスクラムでもプロジェクトが1つの場合はうまく機能しますが、それが企業レベルで起きないようにしなければいけないとShalloway氏は述べました。

ソフトウェア開発では無駄の定義をしにくい部分があります。無駄を取るという発想ではもしかすると価値ある部分を捨ててしまうかもしれません。Shalloway氏は「無駄を取る」という考え方を、「ディレイを取る」と解釈し直すことを提案しました。遅れは時間で定義できるので、見えないものを作るソフトウェア開発にも適用しやすいのです。

 

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2日目も会場は大入り

 

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Shalloway氏のキーノートの様子。ビジネスビジョンの共有はできていますか?

 

このセッションの資料はこちら

http://www.slideshare.net/hiranabe/what-is-next-in-the-agile-world-japanese-added

 

 

キーノートセッション
「非ウォーターフォール型開発に関する調査結果と課題」
IPA 伊久美功一氏

 

・17社22事例の調査結果を発表
2日目2本目のキーノートとして、IPA(情報処理推進機構)のソフトウェア・エンジニアリング・センターの伊久美氏が日本国内でアジャイル開発を行った17社22事例の調査結果を発表しました。すべての対象事例で反復型計画が実施されており、平均開発期間は2.4週間です。契約形態は準委任契約と請負契約が多く、それぞれ39%、33%です。開発チームは約6割が10名以下で、開発期間も2?4ヵ月が45%と、中小規模のプロジェクトが多い状況です。
対象事例は内部開発が多いものの、大手SIでもトライアルが行われていることがわかりました。アジャイルプラクティスをすべて採用するのではなく、プロジェクトの応じて取捨選択・アレンジして活用している例が多いそうです。

・アジャイル開発のメリット

アジャイル開発を行った結果、変化への柔軟な対応が可能になったほか、市場への製品投入が迅速にできるようになったことが明らかになりました。生産性が上がったぶん、品質や保守にリソースをさけるようになっているそうです。また、ペアプログラミングによる、メンバー教育や技術情報共有の効果も見られたそうです。

・契約の問題

アジャイル開発の課題のひとつは、請負開発などにおける契約との齟齬です。請負開発は仕事を完成し結果に対して報酬が支払われる契約のため、仕様を最初に固定しないアジャイル開発はなじまないと考えられています。アジャイル開発の浸透には、ユーザー部門、経営層への働きかけが重要になってきます。

・アジャイル開発をエンジニアリングに高める
最後に、設計、品質、検証などの環境を整備し、アジャイル開発をエンジニアリングにまで高めることが、今後重要なシステムにアジャイル開発を適用していく上での鍵になると伊久美氏は述べました。

 

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IPAが行った非ウォーターフォール開発についての調査報告発表の様子。
設計、品質、検証などの環境整備が今後のアジャイルの課題

 

このセッションの資料はこちら

http://www.slideshare.net/AgileJapan/20104-9-3799030

 

 

事例セッション

 

2つのキーノートセッションに続いて、3つの事例セッションが行われました。

 

大規模アジャイル―パネルで語るそれぞれの挑戦
富士通ソフトウェアテクノロジーズ 神部知明氏
日本アイ・ビー・エム 玉川憲氏
情報システム総研 児玉公信氏、森下真衣氏
(モデレーター)豆蔵 羽生田栄一氏、富士通 和田憲明氏

大規模アジャイルについての事例セッションは、富士通ソフトウェアテクノロジーズの神部知明氏、日本アイ・ビー・エムの玉川憲氏、情報システム総研の児玉公信氏、森下真衣氏の4名のパネラーと、豆蔵の羽生田栄一氏、富士通の和田憲明氏2名のモデレーターによって行われました。まだ情報が表に出てこない大手SI企業を中心としたアジャイル開発事情が聞ける貴重な場となりました。


富士通ソフトウェアテクノロジーズの神部知明氏は知創空間と呼ばれる社内SNSをアジャイルで開発した事例を、日本アイ・ビー・エムの玉川憲氏は製品開発部門でアジャイルな開発手法を標準として推進している事例を、情報システム総研の児玉公信氏、森下真衣氏は準委任契約で行ったアジャイル開発の事例をそれぞれ紹介しました。

富士通ソフトウェアテクノロジーズの神部氏は10人のチームを7年かけて50人のプロジェクトにスケールアップしたそうです。神部氏のチームが実践したのは、イテレーションで動作するものを作る、朝夕のミーティングや見える化で問題点を早期に見つける、ペア作業やふりかえりでノウハウを共有する、バグトラッキングツールを活用する、といったことです。2009年の火消しプロジェクトでの成果をきっかけに、チームを超えた社内への浸透が始まっているそうです。
日本アイ・ビー・エムの玉川氏は、アジャイルで開発されている同社の開発プラットフォーム製品「チームコンサート」の事例をもとに、アジャイル開発を大規模化する際のポイントを紹介しました。玉川氏によると大規模化のポイントは小規模チームを核にスケールさせることだそうです。また、オフショアをはじめとする分散開発では、コミュニケーションとコラボレーションをサポートする環境整備が欠かせないことを述べました。

情報システム総研の児玉公信氏、森下真衣氏は、アジャイル開発の前提として、経営が主体的にシステム開発に関わる状況を作ること、腕の良い技術者が適正に評価されることが必要であると主張しました。

 

 

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パネルディスカッションの様子。いよいよ大手もアジャイルに本腰です

 

このセッションの資料はこちら

http://www.slideshare.net/slicks/agile-japan2010

http://www.slideshare.net/kentamagawa/ibm-3910516

http://www.slideshare.net/AgileJapan/ss-3815129

 

 

成長する組織へ導くコミュニケーション変革
ブレイン・ラボ 永井正樹氏、榎本明仁氏
シリウステクノロジーズ 安藤連氏、高橋一貴氏
(モデレーター)Odd-e Japan Emerson Mills氏、江端一将氏

ブレイン・ラボとシリウステクノロジーズによるスクラム適用の事例です。ブレイン・ラボからは永井正樹氏と榎本明仁氏が、シリウステクノロジーズからは安藤連氏と高橋一貴氏が登壇しました。


ともに開発を楽しめるスタッフには恵まれていたものの、ブレイン・ラボは個人プレーが中心でスケジュールどおりに納品できない問題に、シリウステクノロジーズは納品前のデスマーチ(に近い)状態に悩まされていました。ブレイン・ラボでは榎本氏の積極的な提案で、シリウステクノロジーズではもともと組織だった開発マネジメントを求めていたことから、それぞれスクラムの導入に踏み切りました。


ブレイン・ラボでは自発性や学習サイクルが生まれ、シリウステクノロジーズでは活気や信頼が生まれました。QCDの視点で考えると、ブレイン・ラボでは全般的に向上し、シリウステクノロジーズではQとD(品質と納期)に改善が見られたそうです。


シリウステクノロジーズはスクラムを教科書どおりに導入しようとしてもうまくいかないことを指摘しました。スクラムはあくまでフレームワークなので、プロジェクトや企業ごとに導入のスタイルは変わってきます。今後はより違った形のスクラムの導入事例が増えてくることでしょう。

 

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スクラムを導入した2社の事例が発表されました。
スクラムはあくまでプラットフォームであるという認識が大切です

 

このセッションの資料はこちら

http://www.slideshare.net/akienomoto/agile-japan-2010

 

 

変化を受け入れるアジャイルなプロジェクトマネジメントと現場
―《ツール・環境編》《組織、意識改革編》

グロースエクスパートナーズ 鈴木雄介氏
永和システムマネジメント 西村直人氏
(モデレーター)チェンジビジョン 平鍋健児氏

アジャイルプロジェクトのマネジメントについて、「ツール・環境」の視点でグロースエクスパートナーズの鈴木雄介氏が、「組織、意識改革」の視点で永和システムマネジメントの西村直人氏が解説を行いました。

鈴木氏は、多くの違ったプロジェクトが存在するユーザ企業内での標準化について新しい視点を与えました。これまで標準化とえいばソフトウェア部品、フレームワーク、あるいは作業手順などが議論の対象でしたが、特性の異なるプロジェクトで1つの標準が使えることはまれです。鈴木氏は、同じ「こと」の繰り返しが前提の標準化と、同じ「こと」の繰り返しがない前提の標準化の違いを解説しました。その上で「こと」が違っても、IDEや構成管理、継続的インテグレーションなどの開発プラットフォームの標準化は有効で、アセスメント性が向上するほか、プロセス品質の適正化、要因流動性の向上などのメリットがあると述べました。標準的な環境を用意して、プロジェクト間で人が流動しても自然に誰もが無理せずできる環境としての標準を与えることが大切だそうです。もちろん、環境だけではなく、上にも下にも働きかけて改善していく事務局の働きがより重要であることを強調しました。

西村氏はアジャイル開発の導入支援で得た知見をもとに、アジャイル開発の始め方にフォーカスした解説を行いました。トップダウンでアジャイル採用の号令がかかったとき、その命題を与えられた現場は混乱します。アジャイル開発導入の鍵は現場にあり、導入期にはパイロットプロジェクトのような学ぶための環境を用意することが大事です。スクラムマスターやアジャイルコーチ、メンターといった経験者のサポートもあったほうがよいでしょう。チームが成熟してくれば、自分たちで学習していけるようになります。そして、その成功チームを中心に、企業内にアジャイルの採用が広がっていくのです。西村氏は「スクラムマスターは不要になるのが目的」と述べました。同感です。

 

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《組織、意識改革編》の発表を行う西村氏。スクラムマスターは不要になるのが目的

 

このセッションの資料はこちら

http://www.slideshare.net/nawoto/happy-adapting-agile-software-development

http://www.slideshare.net/yusuke/agile-japan-2010-lt

 

 

ワークショップ

事例セッションと平行して6つのワークショップが行われました。写真を中心に各ワークショップの様子をお伝えします。

 

Agile on プロジェクトファシリテーションでイテレーション体験ワークショップ
プロジェクトファシリテーションを推進する会 前川直也氏

 

 

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レゴブロックを使ってファシリテーションを体験します

 

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テーマは飛行機の制作。タスクはToDo、Doing、Doneのカンバンで見える化して共有

 

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完成した作品達です

 

このワークショップの資料はこちら

http://www.slideshare.net/maekawa/agile-on-pfonline

 

 

会議ダイエット『必要なルールは4つだけ』
ゲームデザイナー 米光一成氏

 

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会議とは何か?ゲーム開発の体験を交えながら、ワークショップが行われました

 

 

カンバンゲーム―かんばんによるプル型開発体験
永和システムマネジメント 安井力氏、岡島幸男氏

 

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カンバンゲームの解説をする安井氏

 


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カンバンゲームを体験中の参加者

 

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さまざまなストーリーカードが並びます。
これらのストーリーをゲーム形式で消化していきます

 

このワークショップの資料はこちら

http://www.slideshare.net/yattom/ss-3731909

http://www.slideshare.net/yattom/ss-3731917

 

 

コミュニケーションでスタートする“違い”マネージメント
―思いやりで伝える技術

アネゴ企画 上田雅美氏

 

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ワークショップの説明を行う上田氏。聴覚系、言語感覚系、触覚系、視覚系、いずれが優位かによって、効果的なコミュニケーションの仕方が異なるそうです

 

 

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コミュニケーションスキルを高め合う参加者の皆さん

 

このワークショップの資料はこちら

http://www.slideshare.net/AgileJapan/ss-3741845

 

 

職場に持ち帰るまでがAgile Japan!
―明日から実践するための『持ち帰り型』ワークショップ

OSN(Osaka Study Network=大阪の若手勉強会)の皆さん

 

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『持ち帰り型』ワークショップの様子。持ち帰ってやってみよう!

 

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模造紙にアジャイルカンファレンスの気づきをまとめます

 

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気づきを全体で共有

 

このワークショップの資料はこちら

http://www.slideshare.net/nishikawa_makoto7/agile-japan

 

 

アジャイルUX『ユーザーに“弟子入り”』
―開発者のためのUXインタビュー入門講座

利用品質ラボ 樽本徹也氏
株式会社QUICK 川口恭伸氏
EM ZERO編集部 野口隆史

 

 

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UXの解説を行う樽本氏。第一法則は「ユーザーの声、聞くべからず!」

 

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対戦形式で互いのストーリーを探り合います

 

 

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UXの詳細は会場で配布されたEM ZERO Vol.5に掲載されています

 

このワークショップの資料はこちら

http://www.slideshare.net/AgileJapan/aj2010ws4bemzero

 

 

見える化ディスプレイ

 

イベントを通してさまざまな見える化ディスプレイの展示が行われました。

 

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見える化と言っても実に多くの実践例があります
 

 

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佐賀県庁の見える化の例

 

 

クロージングキーノート
「新時代の開発プロセスに向けて―開発プロセスから開発Baへ」
豆蔵 羽生田栄一氏

 

2日間のイベントを締めくくるのは豆蔵の羽生田氏のクロージングキーノートでした。羽生田氏は、これまで「プロセス」と「プロダクト」の間を行ったり来たりしていたソフトウェア工学の興味対象が、今後は有機的に融合していくべきであると述べました。そのために必要なのがアジャイルな「Ba」です。アジャイル人材をファシリテーターとして、経営者、企画者、設計者、開発者が一体となって、「要求獲得=合意形成=設計=開発」のサイクルを回していく必要性を説きました。

羽生田氏は最後に、『論語』の学而編を引用しました。

「子曰く、学びて時にこれを習う、また説(よろこ)ばしからずや」

ここで「習」は「発表会で実際に披露する」ことを示しているそうです。そうした場(Ba)こそがアジャイルであり、そして今回のイベントである「アジャイルジャパン」である、ということです。来年の開催が一層楽しみになりました。

 

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アジャイルな「Ba」を作ろう!

クロージングキーノートの資料はこちら

http://www.slideshare.net/AgileJapan/0410agilejapan2010hanyudasan

 

 

 

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来年もまたお会いしましょう!
写真は、スタッフで撮影した写真。左半分の人が「A」を、
右半分の人が「J」をポーズして、AJ=AgileJapanを表現しています。

 

 

 

発表資料はSlideShareでご覧いただけます

当日の資料がhttp://www.slideshare.net/event/agile-japan-2010で公開されています。来場できなかった方はイベントの様子を知るための、来場された方はふりかえりとしてぜひご覧ください。

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